オーストラリアのM&AとIPO市場に関する洞察

2020年Dealtracker

荒川尚子
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Dealtracker第7版ではオーストラリアのM&A(合併・買収)と株式市場を分析をしました。 本版は、2019年1月1日から2020年6月30日までの18ヶ月間の案件を対象としています。
洞察

全体的な案件量は前期とほぼ同じでした。しかしながら、案件が盛んであった2019年後半に対し、2020年前半はパンデミックの影響で大幅に案件数が減少したことで、二極化した期間となりました。オーストラリア経済の資源主導型経済から知識ベースのサービス経済への継続的な転換の動きは、本レポートに見られるように、この期間を通じて加速していることがわかります。とりわけ情報技術(IT)セクターの伸びは大きく、パンデミック下の市場状況に後押しされ大幅な成長を遂げています。

洞察

パンデミックの影響

2019年12月31日までの案件は、2020年での報告件数が本レポート発行以来最多となる活発さでした。 2020年前半の活動レベルはパンデミックの影響を受け、2017年以来の水準にまで大幅に減少しました。 本レポート発行時点では、不確実性は残るもののコロナ禍後を見据えた活動レベルの上昇がみられました。関心の的となるのは、コロナ禍後の消費者や従業員の行動変化から恩恵を受けると予想されるテクノロジーを活用した分野です。

 

外資は引き続き順調

全体の29%を占める海外からの買収は前期の31%から減少し、例年の上昇傾向を覆す結果となりました。この逆転現象は、パンデミック開始以来、渡航規制や外資規制の強化によりクロス・ボータ案件が困難になっていることに起因すると考えられます。こうした逆風の中、テクノロジーの活用や承認プロセスの延長を受け入れる構えである海外勢はオーストラリア資産への案件に依然として意欲的です。

 

投資ファンドの活動

パンデミックの煽りを受けた全体的な減速基調にも関わらず、2020年前半の投資マネージャー(以下「IM」)活動は好調を維持しました。好調の要因となったのは、IMの継続的な大規模資金調達と、2020年の案件活動を牽引したITやより幅広いテクノロジーへの関心の高まりによるものでした。

 

上場・債権市場

2020年前半の報告では、パンデミックの影響を受け、新規公開株(IPO)の発行数は大幅に減少しました。しかし、新規発行株の減少は大規模な二次発行(セカンダリー・オファリング)によってある程度相殺されました。これは多くの企業がパンデミック下での十分な流動性確保に焦点を当てたことに起因します。全体的な活動レベルと同様、本レポート発行に先立つ数か月間、企業はIPO市場での案件に強い意欲を示しており、その需要の多くはテクノロジー活用に関連していています。

 

案件マルチプル

本レポート調査期間中のEBITDA倍率の中央値は8.1倍となり、前回の7.1倍から上昇しました。長期的な過去の平均7.8倍をわずかに上回る結果となりました。これは、一般消費財・サービス、ヘルスケア、素材、エネルギーといったセクターの好調が一因となっています。

 

期待される市場動向

次回レポートの市場状況を予測することは非常に困難ではありますが、すべてのセクターでテクノロジー活用が加速している現在の市場下では、今後18ヶ月間にわたって活動レベル、とりわけIM活動は継続して活発化すると考えられます。しかしながら、政府の景気刺激策が大幅に縮小された後の案件環境や、ワクチン普及に先立つ感染の波によって引き起こされるリスクには引き続き注意が必要です。こうした状況が長期化した場合、案件量の減少や資産評価の低下につながる場合があるでしょう。

 

本レポートのデータは、S&P Capital IQ、オーストラリア証券案件所、マージャ-マーケット、IBISWorld、案件調査、企業による発表、その他の公開文書など、複数の情報源を元に作成されました。

当社独自の情報に加え、こうしたマルチソースの総合的な分析により昨今のオーストラリアの案件活動について最も包括的な見通しを提供できるものと考えています。

本調査は、不動産関連で価値が500万豪ドル超過する案件を除いた、継続企業の前提が確認された売却に限定しています。
本レポートで言及される通貨はオーストラリアドルです。