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製造業への投資は引き続きオーストラリア連邦予算の優先事項

荒川尚子
By:
Manufacturing report
2023年5月の連邦予算は、クリーン・エネルギー、資源の付加価値プロセス、技術、防衛に明確に焦点を当てています。発表された措置は、長年待ち望まれていた国家復興基金(NRF, National Reconstruction Fund)の目的に沿ったもので、オーストラリア国内製造業者を対象とした主要なイノベーション・インセンティブです。
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今回の連邦予算は、生活費の圧迫、経済成長、国家の安定のバランスに焦点を当てたのは明確です。ただし、主力のイノベーション支援プログラムである研究開発(R&D)税の優遇措置については言及されませんでした。業界のイニシアチブの概要は控えめで、利益が完全に実現するまでの長い滑走路はあるものの、連邦予算は、以下に概説する業界開発に対する目標を定めた責任あるアプローチを示したのです。

国家復興基金(NRF)への大きな変更はなし

2023年3月に待ち望まれていたNRF法案が可決されたことを受け、再生可能・低排出技術、医療科学、運輸、農業・林業・漁業分野での付加価値、資源の付加価値、防衛力、そしてそれを可能にする技術といった優先分野が、現在、基金を通じた資金へのアクセスに、より近づいています。

NRFには総額150億豪ドルが配分され、そのうち8億豪ドルは2022年10月の最初の連邦予算の前に予め配分されました:

  • 再生可能エネルギーと低排出技術に最大30億豪ドル、
  • 医療用製造15億豪ドル、
  • 資源の付加価値プロセスに10億豪ドル、
  • 重要な技術に10億豪ドル、そして
  • 農林水産業、食品、繊維の付加価値プロセスに5億豪ドル。

NRFの投資の枠組みの詳細はまだ未公開なものの、譲許的融資、出資、保証などの金融オプションを提供することが期待されています。10年間の実績を持つクリーン・エネルギー・ファイナンス・コーポレーション(CEFC)の枠組みに基づいてモデル化されたNRFは、投資および商業条件の遵守に関する詳細がまだ策定されていないことに留意しつつ、投資ポートフォリオ全体にわたってプラスの収益率をもたらすと期待されています。

世界的な脱炭素競争において、NRFは、アメリカの画期的なインフレ削減法(IRA, Inflation Reduction Act)のような著名な国際的プレーヤーが提供するインセンティブ・パッケージに対抗することにより、オーストラリアの将来の産業を発展させる上で、極めて重要な役割を果たすことが期待されています。世界的な競争の先を行くためには、オーストラリア政府が2023年半ばに設定されているNFR開始予定日を実行することが重要です。

優先サプライチェーンの構築

革新、商業化、そして優先産業セクターを横断するスケールアップ企業は、NRFのための投資準備プロジェクトの創出を目指すイニシアティブを通じて支援されるでしょう。これには、中小企業やスタートアップがアイデアを商業化し、成長することを可能にするために、4年間で3億9,240万豪ドルが割り当てられた産業成長プログラムが含まれます。7つの優先セクターを開発するために必要なエコシステムを構築するために、成長アドバイザリー・サービス、メンターシップ、マッチング・助成金をスタートアップや中小企業に50,000~500万豪ドル提供しています。

オーストラリアを世界のクリーン・エネルギー・リーダーとして位置づける

連邦予算に至るまで、オーストラリア政府は、温室効果ガス排出量の削減とオーストラリアの脱炭素イニシアティブの支援におけるNRFの重要な役割を強調してきました。予算は、オーストラリアを世界の再エネ・スーパーパワーとして政府の経済成長戦略の中心に位置づけるというこの野心を再度強調しました。また、オーストラリアのクリーン・エネルギー移行を促進するため、国家ネット・ゼロ機関に予算配分を行っています。

イニシアチブを実現するには、以下が含まれます:

  • 水素先制プログラムは、3年間で26百万豪ドルを受領して設立され、27年度から合計20億豪ドルで運用される予定です。このプログラムは、初期段階のプロジェクトの商業ギャップを埋め、競争力のある水素生産契約へのアクセスを提供することで、オーストラリアの水素産業に対する外国および国内の投資を誘引するのに役立つでしょう。
  • 地域基金は地域産業がネット・ゼロの変革に向けた機会を実現するために、5年間で13億豪ドルを配分。これには、地方における新しいクリーンエネルギー産業の成長を支援するための4億豪ドルの産業変革の流れ、およびエネルギー変革に不可欠な重要な資源のソブリン製造を支援するためのクリーンエネルギー産業ストリームへの重要なインプットのための4億豪ドルの資金が含まれます。

クリティカル・ミネラルのサプライチェーン

同様に、オーストラリアはリチウム、コバルト、レアアース、ニッケル資源の豊富な埋蔵量から恩恵を受ける立場にあるため、陸上資源とエネルギーのバリューチェーンを拡大することは明確な優先事項です。政府支援として、オーストラリア重要鉱物資源支援の下でのイニシアティブには、以下を含む4年間で8,050万豪ドルが配分されました:

  • 4年間で5,710万豪ドルを拠出する「重要鉱物国際パートナーシップ」プログラムは、オーストラリアのクリティカル・ミネラル・プロジェクトを推進し、主要な国際パートナーとの多様で強靭なサプライチェーンを構築するための国際的な関与を引き受けることを目的としています。
  • 4年間で2,340万豪ドルはクリティカル・ミネラルに関する政策の開発とプロジェクトの推進のために配分されました。環境、社会、ガバナンス(ESG)に関するオーストラリアの信用を国際市場に紹介するためのものです。

重要技術産業の責任ある発展

オーストラリア政府はまた、以下を含む対象を絞った投資を通じて、オーストラリアの将来を見据えた産業を育成するための支援を提供します:

  • オーストラリアの量子・人工知能(AI)産業を支えるために、5年間で1億120万豪ドルの資金を配分し、重要な技術を成長させている目的。
  • オーストラリア産バッテリー計画の一環として、4年間で1,480万豪ドルでオーストラリア産業成長センターを設立し、先進的な技術と技能を開発し、再生可能技術の製造、商業化、採用を目指すオーストラリアの事業を支援する目的。

防衛イノベーションへの投資

オーストラリア政府は、2023年4月に公表された国防戦略レビューに続き、新たな国家防衛能力への投資を含む、当面の行動のための6つの優先分野に防衛資金を優先順位付けし直しました。今後12ヶ月の間に、提言が実施され、国防産業開発戦略が発表されると、詳細が明らかになると予想されます。

イニシアティブには、より多くの防衛関連の雇用を創出し、技術と革新的なソリューションを商業化するために、10年間で34億豪ドルの「先進戦略能力アクセラレーター」を設立することが含まれます。プログラムの優先事項は、極超音波、指向エネルギー、信頼できる自律性技術、量子技術、情報戦争、長距離武器です。